鹿児島県 味噌醤油工業協同組合

鹿児島の料理はなぜ甘いの？

鹿児島県内の食卓や飲食店などで食べられている料理は、甘い味付けになっています。
その甘くて美味しい味付けの料理にとって欠かせない、大きな役割を担っている鹿児島県内産の醤油と味噌について紹介させていただきます。

歴史的背景と文化
鹿児島県民が甘さを愛するワケ

そもそも、なぜ鹿児島の醤油や味噌は他県産品に比べて甘いのでしょうか？

まず、醬油の甘さについては、諸説ありますが大きく以下の要因が挙げられます。
一つは、歴史的な要因です。江戸時代にオランダとの交易で長崎・出島に砂糖が持ち込まれ、その後、奄美地方を中心に原料のサトウキビの栽培が盛んになりました。砂糖が入手し易かった九州で砂糖文化が花開き、甘い料理が好まれるようになったと考えられます。

しかし、薩摩藩政下、鹿児島は砂糖の生産地でありながら、専売制を敷いていたこともあり、庶民の口に入るのは非常に難しかったと思われます。
鹿児島の甘さを貴ぶ背景にはサトウキビが目の前にありながら、それを口にすることができなかった庶民の渇望感も影響しているのではないかと考えます。
また、戦中戦後甘いものに飢え、しばらくして物資が豊かになりつつある時期に、甘さに飢えていた人々の食卓に甘い醤油が出回った時、好きなだけその甘さを享受したのではないかと考えます。
また、同時に、代表的な醤油である本醸造では補えないような旨み成分（アミノ酸液）を加えることで、甘さだけでない旨みを持った風味が生まれ、鹿児島の醤油の特色となりました。

気候と食文化
食塩濃度の低さが引立てる美味さと甘さ

加えて、食塩濃度の低さが甘さを加速しています。
鹿児島の代表的な麦味噌は、9～11％程度で、一般的な米味噌に比べ1～2％低くなっています。
醤油においても同様で、代表的な濃口醬油では、全国平均が16～17％のものが、県内産では14～15％程度で作られており、甘くて旨い鹿児島県産醤油の美味しさを更に引き立てる役割を果たしています。

次に、気候的な要因です。
暖かい気候で生活をする人は寒冷地の人より余計に汗をかきます。不足した塩分と糖分を必要とします。必然的に甘辛い料理が好まれ、甘口の醤油が受けます。
昭和56年に、県内の家庭での澄まし汁と味噌汁の食塩濃度を調査した際、0.8％から1.5％に分布していましたが、海岸部（温暖地）では低く、山間部（寒冷地）で高い傾向にありました。
鹿児島は気温が高く夏場を中心に汗をかき、体力を消耗するため、不足した塩分と糖分を補おうと甘辛い味を欲します。
戦後、砂糖が入手し易くなってくると、一部の地域では重労働の漁師が砂糖を溶かした醤油を携え、船上で調理時に使った習慣が評判となり現在の甘口の醤油として広まったとの話もあります。

このように、地域的な特徴のある甘くて旨い鹿児島の調味料をお使いいただくことによって、地域の味覚で守られて来た鹿児島の食文化（味覚文化）がこの先も受け継がれていくことになると考えます。

お勧めの料理は？

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伝統の製法

「みそ文化史」（全国味噌工業協同組合連合会・中央味噌研究所、2001年発行）に、鹿児島の麦みそ、ナリみそ（ソテツみそ）の記述があるので、以下に記します。

「みそ文化史」
（全国味噌工業協同組合連合会・中央味噌研究所、2001年発行）

鹿児島の麦みそは「薩摩みそ」と呼ばれているが、この地は今も自家醸造みそが盛んにつくられているところで、その原点については、江戸時代末期に薩摩藩士の名越左源太が奄美大島の世情を書き残した『南島雑話』に次のような記事がある。

「･･･米ニテ麹ヲタテ、大豆ヲ入レテ搗ク。コレヲ大和味噌トモ、ヨカ味噌トモ伝。
加減ハ大豆・麹当分二入レ搗キ交へテ、夫ヲ三升五合入レテク。何盛立計ルナリ。
此島大豆別テ多事ナキ故に、米三升ヲ麴二シ、大豆一升ニテ搗。四、五日シテ甘譜一升余リヲ入レ亦搗。
此時亦塩モ少々加ウ。
此通リニ麹・大豆・塩カケ合タル、別シテ味ヨシ。」

大和とは薩摩国のことであり、武士階級は米みそを食べていたことがわかる。一般庶民がどんなみそを食べていたのかは明らかではないが、奄美大島では、特産の「ナリみそ」（ソテツみそ、後述）が米みその系統であるので、一般に米みそが食べられていたと思われる。
この「大和みそ」とは別に「垂れ槽みそ」があり、焼酎の垂れ槽（もろみ）を麹に足して塩を入れたもので、やや酸味のあるみそであったとも書かれている。

鹿児島の本土では、生産量のじつに90％を麦みそが占めている。島津藩主はみそを戦時食として備蓄を勧めたから、武家はもとより商家・農家でも絶やすことなくみそを仕込んでいた。
これが、いまなお県内生産量の30％を占める自家醸造の根源であり、火山灰土のやせた土壌で耕地面積も少ない農家が多いことから、貴重な栄養源、調味料としてのみそづくりは、今後も漸減の方向にはあるが脈々と受け継がれていくのであろう。

マナツル・ナベヅルの渡来地として知られる出水（いずみ）に「味噌なめて晩飲む焼酎に妻はなし煤け嬶（かかあ）に酌をさせつつ」という歌碑がある。
この地で昭和初期に完成した開墾の大事業を指導した農林省の石川理紀之介の歌だが、まさに当時の貧しい農家の哀しみを表現するもので、みそが庶民のものであったことを偲ばせてくれる。どの農家でも年間の所要を満たすだけの量を晩春と秋に仕込み、みそ桶の底に蒸しコンブやゴボウなどを入れておく。みそを食べるのは2週間目からである。

南国の珍味「ソテツみそ」

いかにも南国らしい地域特産みそとして、鹿児島の奄美大島には「ソテツみそ」がある。
亜熱帯植物のソテツは、日本では南西諸島一帯に自生する。高さ15メートルにも達する常緑の裸子植物で雌雄異株、系統上はシダ植物と種子植物をつなぐものとされる。
卵形の種子は赤色角質で内部は白色、かつて奄美諸島や沖縄地方では茎とともに救荒食糧としていた。

このソテツの実を米や麦の代わりに用いたのが「ソテツみそ」である。
奄美大島では古くから自家用として広くつくられていたが、ソテツの実のことを大島本島ではナリ、沖永良部島ではヤナブと称し、したがってそれぞれ「ナリみそ」「ヤナフみそ」とも呼んでいる。

江戸時代の薩摩支配のときの民謡に「彼方（むかい）の沖から白帆やまきやまきや舟の来ゆり、あれ見れ阿母（あんま）、蘇鉄のどがきやはん零（くぼ）せ」というのがある。
この意味は「向こうの沖から白帆巻き巻き舟が来ます、あれごらんお母さま、（お米を積んでくるから）ソテツのお粥など早く捨てなさい」ということで、ソテツを粥にしていたことがわかる。しかし、ソテツの実のおもな用途は「ソテツみそ」であった。
その起源、製法の由来はわかっていないが、ソテツの実を麹につくって蒸したダイズと合わせる製法は日本内地の米みそ・麦みその製法とほとんど同じであり、現地素材を用いて内地伝来の製法で「みそ」をつくったものであろう。

台風常襲地帯の奄美諸島や沖縄で飢饉時に露命をつなぐ最後の食べ物であったソテツの実だが、じつは有毒成分が含まれており、古来その毒を取り除くためによく水洗いすることが行なわれてきた。
その有毒成分はソテツ種子の仁に含まれる一種の配糖体グルコシール=オキシ=アゾオキシメタンであり、自然の状態で酵素によって分解されればホルムアルデヒドなどの毒性を現わす。この有毒成分の存在を明らかにして「シカシン」と命名したのは1954（昭和29）年、鹿児島大学農学部の故西田孝太郎博士であった。

みそづくりの最初もソテツの実の除毒作業である。
ソテツの実の収穫は10月ごろ、十分に乾燥させる。5月中旬、ソテツの実を2つに切って外皮と仁に分け、仁を数日間水に浸してから乾燥させ、臼で搗いて粉末にする。これを水に入れてかき混ぜながら数回水を変え、さらに一昼夜水に浸す。
この乾燥と水洗をくりかえす間にホルムアルデヒドは大半が遊離し除去される。ハーヤマ（山の木々が新緑から鮮縁に変わるころ）の時期に、ユイ仲間（労力の共同奉仕）が高唄に合わせて白でソテツを搗く杵の音は、今も残る奄美大島の風物詩である。

麹づくりは、ソテツの粉末に玄米または麦を混ぜて蒸し、涼しい土間にむしろを敷いて盛り込み、種類は付けずに自然発生するカビを利用する。
ソテツ使用量は家によって異なり、玄米の17～24％から200～300％であり、麹歩合も20～60と範囲が広くて鹿児島本土の麦みそに類似し、いわゆる多麹みそである。仕込みは蒸したダイズ、塩と混ぜて搗き込むが、このとき種水代わりに蒸したサツマイモを加えるのも特徴である。
熟成は約1ヵ月、この製麹と熟成の間にホルムアルデヒドはほとんど消失する。
この「ソテツみそ」はみそ汁用ではなく茶受けとして用いるほか、魚の身をほぐして混ぜこんだユーミン、ブタの肉・耳・内臓と混ぜ合わせたワミソとして食べている。